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書評:『はじめての画像処理技術 第2版』

はじめての画像処理技術(第2版)

はじめての画像処理技術(第2版)

読み終えた画像処理関連の本としては2冊目。結論から言うと画像処理未経験かつ理工系の人間向けの(この分野の)教科書としては良書。

森北出版にはあまり良い印象がないので敬遠してました。だって高専の数学高専の物理高専の化学の森北出版*1ですよ?

高専のなんたらシリーズですが、演習問題の回答にミスがあったりとか色々と良くないイメージがありまして……。最近は表紙がカッコよくなっているみたいでびっくりです。

別の画像処理の本を購入後、こっちの方が良いかもしれないという雑念に苛まされたので両方読めばいいやと思って購入*2

概要

もともとは別の出版社から出版されていた本の改訂版とのこと。電子書籍版は提供されておらず紙媒体版オンリーです。

出版社サイト:はじめての画像処理技術(第2版) | 森北出版株式会社

試し読み用のPDFあり。

出版社側のサポートページとしては下記の模様。現状のところ正誤訂正の情報はなし。

サポート | 森北出版株式会社

今のところ、特に本書については記載なし。

目次は出版社のページ、あるいは上記のPDFを参照。

対象読者など

対象読者は理工系の大学生から高専レベルで、教科書または副読本を目指した、と書いてある。電気系の院卒の人間が読んでも基本概念は十分理解できたので高専情報工学科の3年生か4年生なら問題なく理解出来るはず。

タイトルのとおり初学者向けに基礎概念を説明するタイプの本なので、ソースコードなどは記載されていない。また、対象分野について網羅するタイプの本でもない。

良い点

  • 画像処理の基本手法をグループ分けしたうえで、丁寧に解説している
  • 数式は比較的少ない一方、説明の図が多い
  • 基礎に重点をおいてコンパクトにまとめられている
  • 基礎手法の組み合わせによる応用事例が掲載されている

本書の「はじめに」にあるとおり、基本的な手法の組み合わせの応用による目的の実現を意識した構成になっている。以下、引用。

ある目的のために画像処理装置・システムを新たに構築する際、それが先端的であればあるほど一定レベルの経験と勘が必要になってくる。しかし、これまでに数多くの画像処理手法が実用化されており、これらの中から最適なものを選別しうまく組み合わせて活用すれば、ある程度の用途に対してはよい結果が得られるものと思われる。(p.4)

勘と経験については書いてありませんが、ところどころ経験者ならではの補足情報が書いてあったのは確か。

気になったところ

初学者向けということもあり、濃淡画像(要するにグレースケール画像)、モノクロ画像を中心に説明されている。そのため、カラー画像特有のトピックや3D CG関連については軽くふれているだけで具体的な解説はない*3

数式を用いずに説明している箇所と比較すると、数式が登場する箇所は説明が雑な感じがする*4。図が豊富なのは良いが、図の中にしっかり説明を入れていただきたい。

特にベクトルの説明の図において、どのベクトルが説明しようとしている対象なのか明記がなく文脈と消去法で判断せざるをえない箇所があった。どうも説明の前フリ、前提にしている初期条件の説明が不足気味。

止むをえないのだろうが、応用事例は著者の得意分野に偏っているように見える。どういう理由かはわかならないが、フーリエ変換を使う処理(周波数フィルタリング)は登場しない。
また、ページ数の都合か、やや説明が簡素過ぎる箇所があるように思える。

最近、カラーの技術書を読むことが多いためか、モノクロだと寂しい感じがする。巻頭だけでもカラーページを入れて処理前と処理後の画像を掲載すると良かったのではないだろうか。

まとめ

網羅性はともかく画像処理の基礎概念を理解したい場合にはオススメ。ただし、この本一冊で画像処理系のプログラミングが書けるというような本ではない。

過去記事のまとめでも似たようなことを書いていますが、 OpenCVのような高度なライブラリを利用するとしても、自分のやろうとしている目的に応じて様々な処理を行う関数を組み合わせる必要があります。

どのような場合にどういった処理が有効なのか、既存手法にどういうものがあるのか知っているに越したことはありません。基礎概念を学ぶうえではページ数が176ページ *5で価格も安めなのでちょうどいいかと。

過去に画像処理関係の経験があるか、この分野について網羅的な本が必要であれば過去記事でレビューしているディジタル画像処理 [改訂新版] の方がベターです。 特にカラー画像や3Dまわりなど。

a244.hateblo.jp

それではまた。

*1:高専関係者でないとわからないネタでごめんなさい……

*2:そもそも旧版の評判自体、悪くなかったようなので

*3:言及されている箇所あるが、「本書では解説しない」という但し書きの文章に登場する

*4:数式なしで説明しにくいから数式が出てくるのだろうが…

*5:目次などを除く

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