書評:『PDF構造解説』
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購入してから全部読み終えるまでに時間がかったのと、途中の章を飛ばして読んだりしたのでちょっと消化不良なところがある。
結論から言うと母国語で書かれた書籍は偉大。英語の仕様書数百ページとか読む気がしませんよってところかな。
必要に迫られたら読みますよ、もちろん。
紹介している本を読むか、日本語の解説記事(後述)を読んで大まかな知識を学んでから英語の仕様書に挑むのがいいと思います。
概要
- 作者: John Whitington,村上雅章
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2012/05/25
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
- クリック: 166回
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- O'Reilly Japan - PDF構造解説
- 原著:PDF Explained - O'Reilly Media
- サンプルコード(原著):examples / PDF Explained · GitLab
購入したのは電子版*1。今のところ電子書籍版も買えるように見える。
なんか知らんけど正誤訂正(エラッタ)がない。致命的なミスはなさそうだけど。
感想
本文に関しては図が少ない(5章を除く)。もっと紙面をケチらずに図を入れたら説明がわかりやすいのではないかと思った。説明文と参照する図表の位置が離れているせいで不便。ただし5章と付録はスクリーンショットが入っている。
第2章のPDFをテキストとして作成する事例は鬼門。役者による注が入っているとおり、本文のとおりに入力してもすんなりいかない。 ここは写経せずに読むだけでいいと思う。
あとは章構成の問題。3章の「ファイル構造」と4章の「ドキュメント構造」の順序は見出し項目名だけを見ると妥当に思えるけど、細かい話は後ろに回して、 一つの章でファイル構造とドキュメント構造の概要を説明してしまったほうがわかりやすいんじゃないかと思った。
逆に言うと第2章の導入部がイマイチだということなんだけど。
5章のグラフィックス関連のところは流し読みのみ。雰囲気はつかめたので問題なし。特に有意義だったのは6.4節のフォント関連、6.5節の日本語関連。
英語のリファレンスを読むよりは断然いいんだけど、日本人の書いた日本語の本の構成に慣れていると不自然というか不親切な感じがする。
日本語の入門書に甘やかされているのかもしれないけど。
気になった点など
翻訳の問題
元の英文からだと思うけど、「原点」についてはっきり示していない。左下隅が原点だということに明確に書いていない箇所がある。6.3.2とか。
文字のグリフの原点はどこなのかはっきり書いてない。文字の形状によって違うのか、とか説明がない。ベースラインの下に突き出る'y'とか'j'とか。 文字を囲む矩形領域の左下だと思うけど。
文章が前後で不自然な箇所が数カ所ある。
コンテンツ領域ボックスという用語の説明がない。文脈からCropBoxではないことは明らか。コンテンツの領域ボックスというかBoundingBoxではないか。自信ないけど。
重箱の隅をつつくようだけど、表6-1の下から2行目、font]
の角括弧はいらないのでは。ここだけ不自然。
もう一点、束縛境界もちょっと違和感あるな。もとの英語はBounding なんたらかな。
図表について
6.3.3のテキスト配置の図は縦横の基準線を入れると更にわかりやすくなると思う。
もちろん無いよりましなんだけど。
紹介されているツール類
原著が2011年で、本書が2012年発行なので最新の情報を踏まえていない。また紹介されているリンク先が古い。代表例はpdftk
コマンド。
PDFtk Server という名称になっており、公式ページでリンクされているmac向けのバイナリは古い模様。High Sierra で動作するバージョンも存在するが、修正を含むソースは公開されていないとのことでHomebrewのパッケージはメンテナンスされていない。
参考:pdftk - TeX Wiki
参考 その2:spl/homebrew-pdftk: (UNMAINTAINED) Homebrew Formula for PDFtk Server
日本語絡みの問題が起きず、問題のあるPDFでもどうにかしてくれるのは大きい。Coherent PDFでは不完全。
付録はなかなか有益。ただちょっとコマンドの名前とか変わっている部分があるようにみえる。mupdfの付属コマンドとか。
紹介されているツールがメンテナンスされているのか怪しいものもある。
リンク先にアクセス出来ないものの例。
そのほか
公式ドキュメント(仕様書)
Adobeのバージョン別の仕様書:Adobe PDF Reference Archives
真ん中のリンクがメインの仕様書。
または下記のリンク。こちらはISOの規格としてみとめられたもの。Adobeが無料で配布しているのでそちらから入手。
- ISO 32000-1:2008 - Document management -- Portable document format -- Part 1: PDF 1.7
- Adobeの後悔しているPDF(ISO 32000-1:2008)
PDFの解説記事
日本語のブログ記事など。
PDF関連ツールについての情報源
付録で紹介されているツールはどうにも古い点は否めない。TeX Wikiに有益な情報が多数ある。
他の日本語の本
アンテナハウスからPDFについての書籍が出ている。
PDFインフラストラクチャ解説: 電子の紙PDFとその周辺技術を語り尽す
- 作者: 小林徳滋
- 出版社/メーカー: アンテナハウスCAS電子出版
- 発売日: 2017/02/26
- メディア: Kindle版
- この商品を含むブログを見る
紙媒体とオンデマンド版でページ数が違うので注意されたし。
- 作者: アンテナハウス株式会社
- 出版社/メーカー: アンテナハウスCAS電子出版
- 発売日: 2017/10/17
- メディア: オンデマンド (ペーパーバック)
- この商品を含むブログを見る
まとめ
日本語の書籍があるのは大きい。あるのと無いのではぜんぜん違う。
リファレンスではないし、網羅性は期待してはいけない。PDFライブラリがエラーを吐いた時にPDF側の問題なのか判断するには結局、公式の英語ドキュメントを読む必要がある。
どうにも中途半端な感じがしますが、以上です。
*1:比較的古いタイトルなのでPDF形式のみでepubは提供されていなかった。epub版があったりなかったり基準は不明。