書評:『はじめての技術書ライティング』


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期待したような本ではなかった。読む側として期待しすぎだったか。

ちょっとタイトル詐欺感は否めない。率直に言って、あまりオススメの本ではない。

概要

タイトルのとおり、「ライティング」つまり書くことに重点を置いている。人文系や科学論文以外の文章の書き方の本を目指したらしい。

「はじめての」とタイトルにある割には特に工夫があるわけではなく、それなりに普段本を読んでいて、かつパソコン自体に慣れている人向け。

なお、本書はIT系の技術書や読み物を書きたい初心者に向けて、一般的な書き方を解説するものです。技術文書の書き方に関する資格試験や、企業内での製品マニュアル制作などの目的は想定していません。
向井 領治. はじめての技術書ライティング―IT系技術書を書く前に読む本 (NextPublishing) (Kindle の位置No.33-35). インプレスR&D. Kindle 版.

一般的な書き方なら他の本でいいのではと思う。

内容について

冒頭部で「技術文書の3要件」として、以下のように書いている。

(前略)技術解説の文章を書くときは、①正確であること、②論理的であること、③平易であること、の3点に注意する必要があります。
向井 領治. はじめての技術書ライティング―IT系技術書を書く前に読む本 (NextPublishing) (Kindle の位置No.173-174). インプレスR&D. Kindle 版.

おかしくはないが、技術文書の3要件はさすがに言い過ぎではないでしょうか(いきなり技術書から技術文書に飛躍しているのは大いに疑問)。

正論なので文句をつけにくいが、なんとも違和感がある。

一応、IT系固有の注意点も解説されているが、大筋としてはフォーマルな文章の書き方の範囲であまり特殊なことは書いてない。

「《筆者の場合》」というノウハウを紹介している項目は有益なので退屈な場合はそこだけ読んでもいいと思う。

電子書籍としてはちゃんと表のテキストをコピーできたり*1、かなりまともな作りでこの点は 好感が持てる。

AdobeAcrobatを使った原稿の公正のやり取り、スクリーンショットの撮影に使うソフトウェアについてはかなり詳しく解説がある。

一般的な商業出版ならではの注意事項やヒントについては参考になる。残念ながら組版ツール側の都合からくる注意点が主体。

ただ、ごく一部の、もっと先進的なワークフローで書籍を解説している会社の事例については全然言及されていない。バージョン管理システムによる原稿の管理なんて夢のまた夢。

著者の世代の問題か、技術書を書いていると入ってもそれあくまでツールの入門書であって、「節子、それ技術書ちゃう、解説書や」という感じがする。

面白いのは「1/3」と「3分の1」のどちらがいいかという話。本の著者は後者を勧める理由として「音声読み上げツールを使う可能性がある」からという理由を提示している。年齢的な問題なのか、それとも積極的にオーディオブックなどを利用しているのか。どちらにせよ珍しい視点。

疑問に感じた箇所

データ量の単位の表記の説明で、「b」、「B」それぞれ1文字をビット、バイトという単位の表記として紹介している。間違ってはないが、普通は 「1bit」、「1byte」 とは書いても「1b」や「1B」とはめったに書かない(表やデータシートは別)。

「1b」や「1B」という表記だと鉛筆の芯、あるいは番号付きの箇条書きの見出し、図表の番号などと紛らわしい。もちろんKB、MBのように接頭辞のついた形式ではよく使う。その直後に通信速度の単位について、ビットとバイトの違いに注意しろと書いてあるだけに非常に残念。

また、KiBやMiBついても言及なし。KBやMBでは1,000倍かあるいは1,024倍かは注意すべきポイントのはず。表記について注意喚起するならそこは徹底してほしい。

もう一点、難読漢字をどうするか、ルビを表記することに対してこの本の著者は否定的。これは納得しかねる。活字を並べていた時代はコスト的に厳しかったかも知れないが、紙と電子版で見せ方を変えることもできるのだからルビは積極的に使うべき。技術的な観点から言えば少なくともHTML5には<rub>タグがある。

紙媒体と電子書籍について

注釈についての注意書きの箇所。注釈に関する文章なんだけど電子書籍に関する見解について。

(前略)そもそも脚注はできるかぎり使わず、本文の中で記述することをおすすめします。脚注は本文とは別の場所へジャンプする必要があるため読みづらくなりますし、電子書籍ではページの移動が印刷書籍よりも面倒だからです。
向井 領治. はじめての技術書ライティング―IT系技術書を書く前に読む本 (NextPublishing) (Kindle の位置No.1499-1501). インプレスR&D. Kindle 版.

これは疑問。電子書籍リーダーの問題をメディアの問題と混同している。あるいは電子書籍リーダーの機能を知らないか。

注釈のリンクをクリックしたあと前のページに戻れるし、KindleのPage Flip機能や検索などページの移動については紙より便利。
どうも認識が古いんではないか。

悪文云々について(5.3節)

5.3節に代表的な悪文について解説がある。そもそも技術書に限った話ではないし、今ひとつ説得力に欠ける。

なんとなく世間体の観点から説教している感じの解説。

  • 「技術所では習慣的にひらく漢字:技術書でなくても「かな」表記だと思うけど?
  • 難読漢字:よく使う単語、熟語は漢字表記にするかルビ付きにすればいい
  • 名刺止め、体言止めを悪文呼ばわりはちょっと言い過ぎ

「つたない印象を受けるから云々」という説明は説得力にかける(この本、「つたいない印象」が1回、「大変つたない印象」が2回)。

この書籍の悪文についての解説を読むよりも、数学文章作法シリーズのほうがいい文章がかけると思う。

紹介されているツール

マインドマップに関するものを除けば特に珍しくはない。Scrivenerについては著者の前著を参照とかいてあるぐらいで特に解説なし。

感想

本の著者の年齢が1969年なので考え方が古い印象を受けた。ライティングというタイトルの通りの内容ではあるが、技術書というタイトルにマッチした内容かといわれると微妙な気がした。

文章に変に癖がなく読みやすいの確かで、そのあたりは流石は商業ライターといったところ。

技術文書ではないので別にいいのかもしれないが、パソコン雑誌の文章の書き方指南書というのが一番しっくりくる本。

技術者として働いているならそれなりに文章を書く訓練は受けているだろうし、この本の内容はあまり役に立たないと思う。もちろん再入門としてなら別。
ライティングそのものという観点ではほかにもいくらでも良書がある。

まとめ

上にも書いたがKindle版のつくりが非常にいい。内容はちょっと不満はあるが大筋としては悪い本ではない。少なくとも内容が気になって買うかどうか迷うよりは (半額で買えたので)買ってよかったかなと思う。

他の文章の書き方の本を読んで物足りないならともかく、まずは他の本を読むことをおすすめしたい。

特に同人系のイベントで技術書を書きたいなら、タイトルに技術同人誌と明記している以下の本がいい。

一般的な商業出版についての原稿を各側の予備知識を得る本としては及第点か。 中途半端な感じは否めず。

*1:表の部分が画像ではないという意味

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